「あと数年待つ」か「今練習する」か:受講を決める5つの質問
執筆:沢村秋岳
2026年9月時点の情報です(最終確認日:2026年9月14日)
この記事で考えたいこと
自動運転のニュースが増えるにつれて、「あと数年待てば、運転しなくてよくなるのでは」という声を聞くようになりました。運転から長く離れている人にとっては、時間とお金をかけて練習を始める前に、当然考えることだと思います。
三井住友海上の調査では、運転していないのに免許を更新し続けている理由として最も多かったのは「将来的に車に乗るかもしれないから」で、56.3%でした(出典:三井住友海上火災保険)。多くの人が、運転を「いつか」のまま保留にしています。自動運転は、その保留をさらに延ばしてよい理由になるのか。この記事は、そこを考えるための材料です。
私はペーパードライバー講習を運営する会社の人間です。自動運転が広がれば、この仕事は小さくなっていきます。ただ、だからといって「今のうちに練習を」などと書くつもりはありません。ポリシーとしてできる限り事実に基づき書かせていただきます。皆さまの判断の一助になれば幸いです。
先に結論
待つか今かを決めるのは、自動運転の進み方ではなく、あなたが運転を必要とする時期と環境です。
自動運転は、全国に一斉に届くものではありません。地域によって、道によって、用途によって、届く時期が何年も違います。ですから「技術はいつ実用化されるのか」を一般論で追いかけても、自分の答えは出てきません。
逆に、いつ、どこで、誰を乗せて、何のために運転するのかが決まれば、待てるかどうかはかなりはっきりします。以下の5つの質問は、そのための順番です。答えが「待てる」に寄るなら待てばよく、「待てない」に寄るなら、待って解決する見込みは小さい、ということになります。
質問1 運転が必要になるのは、いつごろですか
5つのうち、これが一番大きい質問です。時期が決まっている人と、決まっていない人とでは、話がまったく別になります。
まず、自分で運転する側の話から。トヨタは2028年から、日産は2027年度から、高度な運転支援を国内の市販車に載せる予定です(出典:Car Watch、日産自動車)。ただし、どちらも制度上はレベル2、つまり運転者が周囲を見張り、責任を負う機能です。運転できる人が乗っている前提で作られているので、「運転を覚えなくてよい理由」にはなりません。
次に、運転手のいない車に乗る側の話。デジタル庁のプロジェクトチームの提言では、都市部のタクシーは2027年度に限定的に始め、2029年度にレベル4を本格化させ、2030年度に全国へ広げる計画です(出典:デジタル庁)。東京を走っているWaymoも、2026年9月の時点ではまだ乗客を乗せておらず、日本交通の乗務員が同乗してのテスト走行の段階です(出典:Waymo)。
この2つを並べると、時期の目安はおおよそ次のようになります。いずれも筆者の見立てです。
- 1年以内に必要:待っていても、間に合う可能性はほとんどありません。
- 2〜3年以内に必要:計画どおりに進んでも、始まるのは限られたエリアの限られたサービスです。待つ判断は難しいところです。
- 5年以上先、または時期が決まっていない:急ぐ理由はありません。状況を見てから決めても遅くないと考えます。
「そのうち引っ越すかもしれない」「親が弱ったら必要になるかもしれない」というように、時期が読めない場合があります。その場合は次の質問2と3で、必要になったときの中身を先に考えておくと、判断しやすくなります。
質問2 運転するのは、どこですか
自動運転は、地図を塗りつぶすように面で広がるのではなく、点と線から始まります。
国は2026年3月、先行して事業化を進める13の地域を選びました。横浜市、堺市、神戸市、日立市、塩尻市、仙台市、つくば市、川崎市、平塚市、小松市、愛知県、京都府、三豊市です(出典:国土交通省)。首都圏では、横浜市が2027年度に都心部で一部レベル4の事業を始め、2028年度以降に郊外の交通空白地へ広げる計画を示しています。川崎市も自動運転バスのレベル4を2027年度に予定しています(出典:デジタル庁、川崎市)。
ここで大事なのは、同じ市内でも、駅前と住宅街では届く時期が違うということです。横浜市の資料では、市域の11%が交通空白地とされています。そして計画では、都心部が先で、郊外が後です。
道の種類でも差が出ます。高速道路や見通しのよい幹線道路は、機械にとって条件が整っていて自動化が先に進みます。一方で、センターラインのない住宅街の道、歩行者と自転車が混ざる生活道路、狭いスーパーの立体駐車場などは、後回しになりやすい場所です。これは筆者の見立てですが、国が選んだ13地域の技術課題にも、路上駐車車両の回避や横断歩道付近の判断が並んでいます。
そこで質問です。あなたが運転したいのは、田舎ですか?都会ですか?生活道路ですか?一般的な市街地ですか?
お住まいのエリアや条件によって、判断軸は異なります。先行13地域に住んでいる場合は待つ判断には根拠があります。一方で、比較的都会・生活道路の組合せでは、待つ根拠は薄くなります。
質問3 誰を乗せて、何のために運転しますか
用事の中身によって、機械に渡せる範囲が変わります。
自分ひとりが移動するだけなら、ロボタクシーや公共交通で置き換えられる余地は大きいです。ところが、人を乗せる用事になると話が変わります。
- 子どもの送迎:チャイルドシートの用意、子どもだけで乗せてよいのかなど、車が無人で走れるかどうかとは別の問題が残ります。
- 親の通院や介護の付き添い:乗り降りの介助、荷物、待ち時間の付き添いは、運転席の仕事ではありません。
- 荷物の多い買い物や、家族での遠出:積み下ろしと寄り道の自由度が、そのまま価値になっています。
- 仕事で使う:会社の車や訪問先の事情に左右され、自分で選べないことが多くなります。
先ほどの三井住友海上の調査でも、不便さを感じる場面として「子供の送り迎えの時」を挙げた人は女性19.5%、男性4.0%と差がありました。実際にペーパードライバーを卒業したきっかけも、「子連れでの移動のため」が女性19.0%、男性5.0%で、女性のほうが高く出ています。
運転席の作業だけが用事ではない、というのがこの質問の要点です。ドアからドアまで人を支えるところまで含めると、機械に渡せる部分は思ったより狭くなります。
質問4 車は、いつ手元に来ますか
車の側の事情も、待てるかどうかを左右します。
すでに車がある人は、買い替えの時期が関係します。乗用車(軽自動車を除く)の平均使用年数は13.35年です(出典:自動車検査登録情報協会)。今ある車に長く乗るつもりなら、2028年に出る新しい機能が自分の車に載るのは、かなり先ということになります。
これから車を買う人は、2027年から2028年以降の新型を待つ選択があり得ます。ただし質問1で書いたとおり、その車も運転できる人が乗る前提の機能です。「支援機能の付いた車を買うから練習しなくていい」とはなりません。
車を持っていない人は、実はいちばん身軽です。買い替えの周期に縛られないので、移動手段を丸ごと乗り換えられます。筆者の見立てでは、自動運転への切り替えがもっとも早く起きうるのは、車を持たない都市部の層です。ただし、レンタカーやカーシェアで借りる車は、必ずしも最新の機能を積んでいません。
質問5 待っている間は、どうしますか
待つというのは、何もしないことではなく、その期間の移動を別の方法でまかなうという選択です。タクシー、電車とバス、自転車、宅配、そして家族に頼むこと。
ここで見落とされやすいのが、家族の誰かが運転を一手に引き受けている場合の負担です。待つ年数が5年なら、その人が5年ぶんの運転を続けることになります。これも「待つコスト」の一部です。
もう一つ、正直に書いておきたいことがあります。運転の感覚には、賞味期限のようなものがあります。必要になっていない時期に練習しても、そのあと1年、2年と運転しなければ、感覚は元に戻っていきます。「いつか使うから、今のうちに」という理由だけで急ぐと、同じことをもう一度やることになりかねません。練習がいちばん効くのは、必要になる時期の少し手前です。
なお、同じ調査では、ペーパードライバーの運転の自信度は100点満点の平均で25.4点、卒業した人は60.4点でした。数字の差は大きいのですが、これは「練習したから上がった」とも「必要に迫られて運転した結果として上がった」とも読めます。どちらか一方に決めつけられる数字ではありません。
5つの答えを、どう組み合わせるか
ここまでの答えを並べると、たいていは次のどれかに寄ります。
待ってよいと考えられる人
- 運転が必要になる時期が5年以上先か、決まっていない
- 住まいが都市部で、電車、バス、タクシーで生活が成り立っている
- 車を持っていない
- 今のところ、人を乗せる予定がない
待って解決する見込みが小さい人
- 3年以内に運転が必要になる予定がある(引っ越し、転職、家族の事情など)
- 日常的に使うのが、住宅街の細い道や店舗の駐車場である
- 子どもや親を乗せる予定がある
- 家に車があり、家族の誰かがすべての運転を引き受けている
どちらとも言えない場合は、無理に今決めなくてよいと思います。時期が読めないなら、必要が見えた時点で動くほうが、感覚の面でも効率がよいからです。その代わり、必要になってから動き出すまでには、数週間から数か月かかるということだけ、頭の片隅に置いておいてください。引っ越しや転職の予定が立った日が、考え始める日です。
これから起きること(筆者の見立て)
ここから先は、事実ではなく筆者の見立てです。
変化は、一気にでも、なだらかにでもなく、地域ごとに段差がついて進むと考えています。都市部に住み、車を持たない人は、2027年から2029年ごろに「もうすぐ運転は要らなくなるらしい」と感じ始めるでしょう。ただし、実際に自動運転が普及してくのはその数年後、2029年から2032年ごろだとみています。首都圏の郊外なら、さらに3年から5年ほど遅れます。
この「期待が変わる時期」と「実感が変わる時期」のずれが、いちばん厄介なところだと思っています。もうすぐ要らなくなると聞かされて判断を止めているうちに、必要な場面だけが先に来てしまう。この数年のずれに落ちる人が、いちばん困ります。
一方で、期待もあります。2030年代の後半には、多くの人にとって「運転できなくても不便がない」が現実になっていると考えています。そうなれば、この記事で書いたような判断そのものが不要になります。運転の練習は、免許を取ること自体と同じように、必要な人がする選択肢の一つに戻っていくのだと思います。
その日が来れば、私たちの仕事はお役御免となります。しかし、高齢化社会を迎えて久しい日本では、自動運転が普及していく未来の方が、世の中にとってよいことだと考えています。交通に関しては「AI」や「自動運転」という技術が確立し、社会に実装されていく未来への期待に胸を躍らせている今日この頃です。
出典一覧
[1]三井住友海上火災保険「ペーパードライバーに関する実態調査」(2023年3月31日)
https://www.ms-ins.com/news/fy2022/pdf/0331_2.pdf
[2]Car Watch(トヨタ、2028年からレベル2++導入を発表)
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/2136234.html
[3]日産自動車 ニュースリリース(次世代プロパイロット、2027年度)
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/250922-01-j
[4]デジタル庁 モビリティ・プロジェクトチーム提言(2026年6月16日)
デジタル庁 提言(PDF)
[5]Waymo 日本での取り組み
https://waymo.com/intl/jp/waymo-in-japan/
[6]国土交通省 先行的事業化地域(13地域の選定)
https://www.mlit.go.jp/road/ITS/j-html/automatic-driving-social-result_r8.html
[7]デジタル庁 モビリティワーキンググループ資料(先行的事業化地域の概要、2026年3月12日)
デジタル庁 ワーキンググループ資料(PDF)
[8]川崎市(自動運転バスのレベル4実装について)
https://www.city.kawasaki.jp/templates/prs/500/0000185331.html
[9]自動車検査登録情報協会「乗用車の平均使用年数」(2025年3月末)
https://www.airia.or.jp/publish/file/shiyounensuu_2025.pdf