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AIは誰の運転を見て育つのか:テスラ・トヨタ・日産・Waymoの教材の集め方

自動運転

執筆:沢村秋岳
2026年9月時点の情報です(最終確認日:2026年9月14日)


この記事で考えたいこと

トヨタが2028年に導入するレベル2++の運転支援について、報道では「人間の膨大な走行データを学習したAIが、認知から判断、操作までを一貫して行う」と説明されています。


ここで引っかかった方がいるかもしれません。テスラなら分かります。世界中を走っている自社の車から映像を集められるからです。では、トヨタはそんなデータを持っているのでしょうか。


調べてみると、答えは「テスラとは違うやり方で用意している」でした。そして各社のやり方の違いは、そのまま「日本の道でどれくらい使えるか」の違いにつながります。


運転支援を使う側にとっても、知っておくと車選びの見方が変わる話だと思うので、整理しておきます。


先に結論

AIの運転は、人間の運転を教材にして身につけます。その教材の集め方が、会社によってまったく違います。


大まかに分けると、テスラは「量で押す」、トヨタは「選んで集めて、足りない分は作る」、日産は「外から買う」、Waymoは「プロの運転を教材にする」という4つの型です。


どれが正解かは、まだ決まっていません。ただ、どの型を選んだかによって、日本の細い道や漢字の標識にいつ強くなるかが変わってきます。


テスラ:量で押す

テスラは2021年以降、レーダーもLiDARも使わず、8台のカメラだけで周囲を認識する方式に切り替えました。安いカメラを大量の市販車に載せ、そこから映像を集めてAIに学習させる、という考え方です。モデル3とモデルYだけで累計700万台を超える車が走っています(出典:Carconnect)。


規模がはっきり分かる数字があります。FSD(監視付き)の累計走行距離は、2026年5月3日に100億マイル、約160億kmを突破しました。同社のCEOは、安全な無監視の自動運転を実現するにはおおよそ100億マイル(161億km)分の学習データが必要だという趣旨の発言をしています(出典:Touch Lab)。


必要な量を自分で言い、その量を自社の市販車で稼ぐ。分かりやすい戦略です。


ただし、この100億マイルの大半は北米です。FSDが使えるのは米国、カナダ、中国、メキシコ、オーストラリアなど9つの国と地域で、日本はまだ入っていません。日本のデータは、テスト走行で集めている段階です。実際、東京でのテスト走行では、信号のない横断歩道での歩行者優先、漢字の標識の学習不足、住宅街の細い道での歩行者や自転車との混在が課題として挙げられています(出典:Carconnect)。


量は効きます。ただし、集めた場所の量です。


トヨタ:選んで集めて、足りない分は作る

トヨタのコネクティッドカーの台数は膨大です。2018年のクラウンとカローラスポーツから本格展開が始まり、車載通信機を通じて走行状況や車両状態のデータを集めています(出典:トヨタ自動車)。


ただ、集まっているものの中身が違います。中心は位置や速度、車両の状態といったデータで、E2EのAIが必要とする「前方の映像と、そのときドライバーが何をしたか」のセットとは種類が別です。全車から映像を常時吸い上げているわけでもありません。


Woven by Toyotaが2026年4月に公開した開発現場の説明が具体的です(出典:調査情報デジタル)。次の流れでサイクルを回しているとされています。



  1. ・ユーザーの車で実際に起きている課題や、ヒヤッとした場面のデータをクラウドに吸い上げ、自動で解析する
  2. ・どの課題から解決するか、優先順位をつける
  3. ・その課題に似たデータを集めて、データセットを作る
  4. ・AIに学習させて、解決策をシミュレーションする

このサイクルを速く回すことで性能を上げている、という説明です。


集めたデータは、言葉で呼び出せるようになっています。「animal on road」と入力すると、北海道で収集されたばかりの、キツネが車の前を歩いている映像が出てくる、という例が紹介されていました。


そして、ここが一番はっきりしている部分です。課題に対処するために必要なデータを、車から集めるだけで全部そろえるのは難しい。だから事故に至る直前のシーンなどの動画をAIで生成して、シミュレーションするとしています。


事故の直前の映像は、そもそも現実にはめったに手に入りません。集まるのを待つのではなく作る、という発想です。


さらに、ウーブン・シティでは街のインフラ側に多数のカメラを置き、車載カメラでは見えない建物の影の歩行者を、映像を言葉に変えるAI(視覚言語モデル)で拾って車に知らせる検証も行われています。車1台から見える範囲の外を、街側で補うという考え方です。


加えて、日経クロステックによると、トヨタはE2Eの中核となるAIモデルを、レベル2++とレベル4で共通にする方針を示しています。開発投資を減らせるとされています(出典:日経クロステック)。商用車のレベル4開発で得たものを、個人向けの運転支援にも回せる構図です。


ちなみにトヨタ系は以前から、専用の高価なセンサー車を大量に走らせるのではなく、一般的なドライブレコーダーの映像から高精度地図を自動で作る実証を重ねてきました(出典:自動運転ラボ)。安い機材で広く集めるという思想は、以前から一貫しています。


まとめると、量で正面から張り合うのではなく、必要な場面を狙って集め、足りない分は生成し、見えない部分は街側で補う。そういう戦い方に見えます。


日産:外から買う

日産は、英国Wayveの「Wayve AI Driver」というAIソフトウェアを、次世代LiDARを使った自社の認識技術と組み合わせています。2027年度に国内の市販車へ搭載する予定です(出典:日産自動車)。


2025年9月には、東京・銀座の一般道を開発試作車が手放しで走るデモンストレーションを公開しています。


自社でゼロからデータを集めてAIを育てるのではなく、すでに運転を学習したAIを持ってきて、日本の道に合わせていく道筋です。時間を買う判断と言えます。


Waymo:プロの運転を教材にする

Waymoは、米国の10都市で週50万回以上の完全自動運転の乗車を提供しています(2026年3月時点、出典:Waymo)。


東京では、2026年9月時点で乗客向けのサービスは始まっておらず、都心7区で日本交通の乗務員が同乗する形のテスト走行の段階です。このテストでは、タクシードライバーのプロの運転技術も学習データとして記録されています(出典:MONOist)。


誰の運転でもいいから集める、ではなく、毎日その街を走っている職業運転手の運転を教材にする。数は少なくても質を選ぶ考え方です。


ここから見えること(筆者の見立て)

ここからは公表された事実ではなく、筆者の見立てです。


まず、模倣学習という言い方が示すとおり、AIは見せられた運転を真似します。教材の質が、そのまま出力の質になります。だからWaymoがプロの運転を選んで記録しているのは理にかなっていますし、トヨタが「ヒヤッとした場面」を優先して集めているのも、限られた枠に何を入れるかという選択です。


次に、量と質のどちらが勝つかは、まだ分かりません。テスラの100億マイルは圧倒的ですが、その大半は右側通行の北米の道です。日本の道は、道幅が狭く、歩行者と車の距離が近く、標識に漢字が使われ、路上駐車をよけながら対向車と譲り合う場面が多い。世界の平均的な道ではありません。


つまり、世界で何マイル走ったかより、日本で何をどれだけ見たかのほうが、日本の道での実力に効いてきます。これは筆者の見立てです。


そしてもう一つ。生成したデータで学習するやり方は、現実にめったにない場面を作れる点で強力ですが、現実にない偏りを一緒に覚えてしまう危険もあります。ここは今後、どう検証されるかを見ていく必要があると思っています。


運転する側から見ると、どういう話か

3つ、実用的な見方を挙げておきます。


1つ目。新しい運転支援が海外で評判がよくても、日本に来てすぐ同じ実力が出るとは限りません。教材の大半が別の国の道だからです。日本での発売が遅れるのは、法律の手続きだけが理由ではありません。


2つ目。AIは「平均的に上手な運転」を学びます。急がず、譲るところで譲り、予測しやすく動く運転です。つまり、支援機能が付いた車に乗ると、自分の癖のほうが浮き上がって見えることがあります。機械が変な動きをしていると感じたとき、実は人間側が読みにくい動きをしていた、ということも起こり得ます。


3つ目。車を選ぶときの視点として、「どこのAIか」に加えて「どの国の道で育ったAIか」を見ると、実態に近い判断ができます。少なくとも当分の間は、ここが性能差として出ると見ています。


この記事のまとめ

AIの運転は、誰かの運転を見て身につけたものです。テスラは自社の市販車から量を集め、トヨタは必要な場面を選んで集めたうえ足りない分を生成で補い、日産は学習済みのAIを外から持ってきて、Waymoはプロの運転手の運転を記録しています。


同じ「AIが運転を学ぶ」という言葉でも、中身はこれだけ違います。ニュースで「膨大な走行データを学習」という一文を見かけたときは、どこで誰の運転を、どうやって集めたのかを一段だけ掘ってみると、その会社の狙いが見えてきます。


なお、この分野は数か月で状況が変わります。この記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。


出典一覧

[1]調査情報デジタル「『交通事故ゼロ』社会を目指すトヨタの最先端AI~『ウーブン・シティ』で独自開発の技術を初公開~」(2026年6月13日)
https://tbs-mri.com/n/ncd95155bc6ec

[2]日経クロステック「トヨタがE2E自動運転『手の内化』、レベル2と4に共通モデル 28年量産へ」(2026年8月29日)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03367/082900038/

[3]トヨタ自動車「お客様のクルマからの車両データの取得と利用について」
https://global.toyota/jp/sustainability/privacy/data-utilizing-initiatives/

[4]自動運転ラボ「トヨタ系Woven Planet Group」(ドライブレコーダーを用いた地図自動作製の実証について)
https://jidounten-lab.com/u_32894

[5]Touch Lab「テスラの『FSD(Supervised)』累計走行距離が100億マイルを突破」(2026年5月4日)
https://touchlab.jp/2026/05/tesla_fsd_10billion_miles/

[6]Carconnect「テスラの自動運転は今どこまで進化した?」(車両台数、東京でのテスト走行の課題)
https://carconnect.jp/column/ev/tesla-autonomous-driving/

[7]日産自動車「2027年度に発売予定のAI技術を搭載した次世代運転支援技術(ProPILOT)を公開」
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/250922-01-j

[8]Waymo「Waymo in Japan」(米国での提供規模、東京でのテスト状況)
https://waymo.com/intl/jp/waymo-in-japan/

[9]MONOist(東京でのテスト走行におけるプロドライバーの運転技術の記録について)
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2504/11/news089.html

この記事を書いた人

沢村 秋岳

沢村 秋岳

合同会社サワムラガク 代表社員・安全運転教育監修

合同会社サワムラガク代表。2013年に独立し、ペーパードライバー専門の出張型トレーニングサービスを提供。延べ50,000人以上の受講実績を誇るペーパードライバー教習の専門家。NHKニュース7、ロイター通信、日本経済新聞など国内外の主要メディアで特集され、安全運転普及への取り組みが広く評価されている。

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